株式会社ヤマセダイニング

「大切な人の笑顔が生まれるお店に」――高松「チーズカフェ」が20年大切にしてきたこと

宿泊業、飲食サービス業

 2026年7月7日、高松市伏石町の「伊太飯(いためし)キッチン チーズカフェ」は、オープンから20年を迎えました。

 今回、20年続く店づくりについて話を聞くために訪ねると、そこにはもう一人、店のことを知ろうとしている人がいました。香川県立三木高等学校1年の田井柚奈(たい ゆずな)さんです。

 田井さんは、学校の取り組み「インタビューシップ」で同店を訪問。自分で店へ電話やメールをし、店主の山本敏信(やまもと としのぶ)さんに企業理念や仕事への思いを聞いたほか、ホールでの接客やスタッフへのインタビューも経験しました。

 山本さんと田井さん、それぞれに話を聞いていく中で何度も登場したのが、「ありがとう」という言葉でした。

 アルバイトの学生が店を辞める日に親へ感謝を伝える“卒業感謝式”、お客さんからスタッフへ届ける「ありがとうはがき」、スタッフ同士で交わされる言葉。そして田井さんがスタッフに話を聞いたことで、山本さん自身も知らなかった思いまで見えてきました。

店を卒業する日に、親へ「ありがとう」を

チーズカフェには、アルバイトの学生が店を辞める日に、親を店に招く”卒業感謝式”があります。

「親御さんに、自分の子どもが頑張っているところを見てほしくて。飲食店だからこそ、そんな機会をつくりやすいんです」と山本さんは話します。

「働いているところに、親には来てほしくないという子も多いんです」

それでも山本さんは、少し強引にその機会をつくっています。親御さんも同席するその場で、スタッフ全員から「卒業おめでとう」「ありがとう」の言葉が盛大に贈られます。わが子が仲間から感謝され、一生懸命頑張っていたことを知った親御さんも、きっと喜んでくれるはずです。

お母さんには、山本さんから「子育てお疲れさまでした」の言葉とともに花束が贈られます。それも、きっと子どもにとって嬉しい瞬間になるといいます。

「その場でなくてもいい。家に帰ってからでいいので、この機会をきっかけに、子どもが親に『ありがとう』を伝えてくれたら」と山本さんは話します。

 「ありがとう」が交わされるのは、卒業の日だけではありません。店には、お客さんがスタッフへ感謝を届ける「ありがとうはがき」があり、働くスタッフ同士でも「ありがとうございます」「お願いします」という言葉が自然に交わされています。

 山本さんが大切にしているのは、仕事ができるか、できないかだけで人を見ないこと。まだできないことではなく、その人の良いところにも目を向けたい、向けてほしいといいます。

「相手の良いところをうまく伝えるのが苦手だったら、それでもいいんです。心から『ありがとう』って一言伝える」

 誰かからの「ありがとう」が、その人自身も気づいていなかった良さを知るきっかけになることがあります。

高校生が聞いた、スタッフの本音

 そんな店で働く人たちは、実際にどんなことを感じているのでしょうか。

 インタビューシップで田井さんがスタッフに尋ねたのは、仕事で意識していることや、この店で成長したと感じること、チーズカフェで働こうと思った理由などでした。

 スタッフは、身だしなみや声のトーン、笑顔を意識していること、ここで働く中で「人を大切に思う気持ち」が成長したことを話したといいます。そして、この店を選んだ理由の一つとして挙がったのが、山本さん自身が人を大切にしていることでした。

 その話を横で聞いていた山本さんが、思わず口にします。

「いや、全然知らなかった」

 スタッフがそんなふうに感じていたことを、山本さんもこのとき初めて知ったのです。

小学生のころに書いた「ありがとう」

 実は田井さん、小さいころにチーズカフェを家族と利用し、「ありがとうはがき」を書いたことがあったのです。

 「私も小さいときに書いたことがあるんですけど、それがスタッフさんの間で共有されていて。ちゃんと届いてたんだなって、うれしかったです。」

 子どものころに何気なく書いた「ありがとう」が、働く人へきちんと届いていた。そのことを、高校生になって働く側の景色を見たことで知りました。

 店内でスタッフ同士が声を掛け合う姿も印象に残ったという田井さん。2日間を終え、「ここで初めて『ありがとう』の大事さを知ったので、これからもっと意識していけたらと思います」と話しました。

「ここで経験できてよかった」と思える人を増やしたい

 店を卒業した学生の中には、帰省した際に再び顔を見せに来る人もいるそうです。

 オープンから20年。これからどんな店にしていきたいのかを尋ねると、山本さんはこう話しました。

「一番の願いは、大切な人の笑顔が生まれるお店であること。ここで経験できてよかったなと思える人が増えてほしいんです」

 それは、お客さんだけではありません。初めてアルバイトする学生にも、家に帰ってお母さんに「楽しかった」と笑顔で伝えてほしいし、誰かに喜ばれたり、感謝されたりする経験をたくさんしてほしいといいます。記念日や誕生日に大切な人を喜ばせようと訪れるお客さんに全力で協力しているのも、そんな思いからです。

 卒業した人がまた店を訪れ、小さいころに店を利用した高校生が戻ってきて「ありがとう」の大切さを持ち帰る。

 高松市伏石町で20年。山本さんが目指す「ここで経験できてよかったと思える店」は、そんな一つひとつの出来事の中につくられているのかもしれません。