香川県三豊市仁尾町にある「平田屋~瀬戸内古街の暮らしの宿~」。築約120年、11代続いた米屋の面影を残す古民家を改装したゲストハウスです。
この宿を立ち上げたのは、丸亀市に暮らすコージさんと、さとみさん夫妻。二人とも宿泊業の経験はなく、現在も会社員として働きながら、三豊市と高松市で計4軒の宿を運営しています。
すべての始まりは、さとみさんの「この家を、きれいにして守りたい」という想いでした。
家を残したかった

平田屋は、もともとコージさんの叔父が暮らしていた家です。叔父が亡くなった後は空き家となり、建物の中には大量の荷物と埃が残されていました。
「最初からゲストハウスをしたかったわけではありません。とにかく、この家をきれいにしたかったんです」。嫁いだ立場でありながら、なぜこれほど家を残したいと思うのか。さとみさん自身にも、その理由は分からなかったといいます。
「ご先祖さまに導かれたのかなと思うこともあります。自分の意思だけではなく、何かに動かされているような感覚がありました」
週末を積み重ねた、夫婦のDIY
平日は仕事があるため、作業ができるのは週末だけ。二人は丸亀市から仁尾町へ通い、大型コンテナを何度も使うほどの荷物を片付けました。
その後も、漆喰を塗るなどのDIYを続け、約3年かけて建物を整えていきました。前へ進む力を持つさとみさんと、慎重に考え、形にしていくコージさん。
時には意見がぶつかりながらも、異なる二人の力が重なり、2021年春、平田屋は宿として新たな一歩を踏み出しました。

不便さも含めて楽しむ、古民家での時間

平田屋には、昔ながらの雰囲気を残した「明治の間」と、浴室やトイレを室内に備えた「昭和の間」があります。
明治の間では、布団を並べて泊まった若者から「おばあちゃんの家みたいで楽しかった」「みんなでトランプをした」といったメッセージが寄せられます。「どんなふうに過ごしてくれたのかが分かるので、手書きのメッセージを読むのが楽しみです。やってよかったなと思います」
外国人旅行者が長期滞在し、夫婦と食卓を囲むこともあります。平田屋は、観光地を訪れるだけではなく、仁尾町で暮らすような時間を味わえる宿になっています。
一歩を踏み出して、人生の見え方が変わった
平田屋を始めたことで、夫婦のお金や時間に対する考え方も変わったと言います。以前は、お金は生活のために使い、減っていくものだと考えていたけれど、今では、旅先での経験や人との出会い、子どもの留学費用も、すべて未来への投資だと捉えているそうです。
また、高松市で新たな宿を立ち上げた際には、工務店やインテリアコーディネーターなど、専門家の力を借りました。自分たちでつくる経験をしたからこそ、任せた方がよい部分も分かるようになったそうです。
何でも自分で抱えるのではなく、自分たちが楽しみたいことは自ら行い、必要な部分はプロに任せる。夫婦は、挑戦を重ねながら経営者としても成長してきました。
現在、二人が考えているのは、ゲストハウスを始めたい学生や若者に、清掃や接客などを経験してもらうことです。宿泊場所を提供しながら、自分たちが学んできた運営の知識を伝えたいと話します。
「私たちが伝えられることでよければ、全部教えたいです」
古民家を守りたいという一つの想いから始まった夫婦の挑戦は、旅人を迎える宿となり、今、新たな一歩を踏み出したい若者へとつながろうとしています。
「何でもいいから、一歩踏み出すことが大切だと、やってみて分かりました」
平田屋は、小さな一歩が、人との出会いを生み、人生の選択肢を広げていくことを教えてくれる場所でした。

