2026年4月6日、高松市田町商店街に、約40席の民間小劇場「絵本の劇場カメレオン」がオープンしました。運営するのは、香川県坂出市に本社を置く、株式会社ARTFIT。演劇公演をはじめ、上映会や音楽ライブ、講演会などにも活用できる多目的な空間として整備されたこの劇場は、香川県内では約10年ぶりとなる民間小劇場です。
子どもも大人も、演劇を観る人も、まだ出会ったことのない人も、ふらりと立ち寄り、物語に触れられる場所。田町商店街に生まれた「絵本の劇場カメレオン」には、地域の文化の未来を変えたいという強い願いが込められています。
「公演したくても、場所がない」 地域の劇団が抱えてきた現実


この劇場づくりの原点にあるのは、香川の演劇環境に対する危機感でした。代表取締役の岡田敬弘さんは、長年にわたり地域で演劇活動を続ける中で、劇団が「次の公演ができない」という理由で活動を終えていく現実を数多く見てきたといいます。
かつて高松市内には小劇場がありましたが、今では地域の劇団が使いやすい規模の会場が限られています。公演しようとすると、いきなり大きなホールを借りることになり、会場費や設備費の負担が一気に重くなる。集客規模とのバランスが合わず、赤字を覚悟しなければ舞台に立てない。そんな状況では、「続けたい」という気持ちだけで文化を守るのは難しいのです。
岡田さんが語る「居場所がなければ文化は続かない」という言葉には、そうした現実を見続けてきた実感がにじみます。劇場は、演劇を上演する場所である前に、表現する人たちが活動を続けるための土台でもあります。「絵本の劇場カメレオン」は、その土台を地域に取り戻す挑戦でもあるのです。
商店街の空き店舗が、文化と出会う場所に変わる
新たな劇場の舞台となったのは、田町商店街の空き店舗でした。
商店街の一角にあるこの場所を見たとき、岡田さんは「ここならできるかもしれない」と感じたそうです。約40席の客席を設けられる広さがあり、商店街に面していることで、これまで劇場に縁のなかった人にも開かれた場所にできる。演劇だけでなく、上映会やライブ、講演会など、多様な用途にも対応できる可能性を感じました。

劇場名の「カメレオン」には、演劇が持つ“変化”や“変身”の面白さ、そして人や時間、用途に合わせてしなやかに姿を変える場でありたいという思いが込められています。
また、「絵本の劇場」という名前には、子どもが絵本に夢中になるように、大人もまた物語に触れ、想像力をひらける場所にしたいという願いが重ねられています。
ロゴを手がけたのは、香川県のイラストレーター・うにのれおなさん。やさしく親しみのある世界観もまた、この劇場の大切な魅力のひとつです。演劇に詳しい人だけの場所ではなく、「なんだか気になる」「ちょっと入ってみたい」と思える入口をつくろうとしていることが、名前やデザインからも伝わってきます。
0歳から大人まで。演劇を“特別なもの”で終わらせないために
「絵本の劇場カメレオン」がユニークなのは、演劇公演だけにとどまらず、日常の中で文化に触れられる仕掛けをいくつも用意していることです。
平日昼間には、未就学児の親子を対象にした「0歳からの劇場遊び」を予定。絵本の読み聞かせや表現遊びを通して、親子が安心して劇場空間を楽しめる場をつくっていきます。泣いても大丈夫、騒いでも大丈夫。そんなやわらかな入口があるからこそ、劇場はもっと身近な存在になっていきます。
さらに、未経験者向けの演劇スクール「ファーストペンギン」や、投げ銭制で楽しめる即興ライブ「行き当たりバッテリー」なども構想されています。岡田さんは、演劇をただの娯楽ではなく、コミュニケーションや想像力を育てる“教育”のひとつとしても捉えています。だからこそ、観る人だけでなく、参加する人、初めて触れる人にも開かれた場を目指しているのです。
「どこからでも文化に出会える場所にしたい」
その思いは、親子向けプログラムや未経験者向けの企画にも表れています。演劇に親しんできた人だけでなく、これまで接点の少なかった人たちにとっても、入り口となる場所を目指していることが伝わってきます。
週末に映画館へ行くように、劇場へ行く。そんな日常を高松から

2026年3月7日・8日には、こけら落とし公演も行われ、多くの来場者でにぎわいました。クラウドファンディングでも目標を上回る支援が集まり、地域の中にこの挑戦を応援する空気が確かに育っていることがうかがえます。
岡田さんが思い描くのは、「今日は映画館に行こうかな」と同じ感覚で、「今日は劇場に行ってみようかな」と思える日常です。演劇が、一部の人だけのものではなく、週末の選択肢のひとつとして自然に存在すること。商店街を歩く人が、何か面白そうだと足を止め、物語や表現に出会うこと。そんな風景が当たり前になったとき、地域の文化はもっと豊かに育っていくのかもしれません。
「絵本の劇場カメレオン」は、空き店舗を活用した新しい劇場というだけではなく、香川で文化を育て続けるための新たな起点です。
演劇をもっと身近に。文化と出会う時間を、もっと日常の中へ。
田町商店街から始まるこの挑戦は、高松のまちに新しい景色を生み出していきそうです。
