避難所お泊まり体験〜防災について学ぼう〜──太田南小で特別な一夜

教育・学習支援業

 令和8年2月21日、高松市立太田南小学校で「避難所お泊まり体験〜防災について学ぼう〜」が開催されました。参加したのは、卒業を間近に控えた6年生約20人です。

 この取り組みの出発点は、子どもたちの「卒業前に、一度でいいから学校に泊まりたい」という素直な願いでした。何気ないひと言にも思えるその声を、大人たちはただの“お楽しみ企画”で終わらせるのではなく、地域にとって意味のある学びへと発展させたのです。
 こうして生まれたのが、地域の大人たちと子どもたちが一緒につくり上げた、避難所体験を兼ねた「防災学習」でした。

「やってみたい」を、地域の学びへ

 今回の企画の原点は、6年生の「学校に泊まりたい」という声でした。子どもたちにとっては、友達と一緒に過ごす特別な思い出への憧れだったのかもしれません。しかし、学校だけで実現するには、運営面や安全面などさまざまな課題があります。

 そこで力になってくれたのが、PTAをはじめとする地域の大人たちでした。子どもたちの願いをどうすれば実現できるのかを考える中で、単なる宿泊体験ではなく、災害時を想定した「避難所お泊まり体験」として形にしていこうという発想が生まれます。

 そこには、「一度体験しておけば、もしものときにも落ち着いて行動できるのではないか」という思いがありました。子どもたちの夢をかなえることと、防災を学ぶこと。その二つを結びつけた今回の取り組みは、まさに地域の知恵と愛情があってこそ実現した企画だったといえるでしょう。

“やってみたくなる”防災

 この体験で印象的だったのは、防災を必要以上に怖がらせるのではなく、まずは身近に感じてもらうことを大切にしていた点です。

 調理実習では、一般社団法人パッククッキング協会ジャパン代表理事の池田奈央さんを講師に迎え、災害時にも役立つ「パッククッキング」に挑戦しました。パッククッキングは、耐熱性のポリ袋に食材や調味料を入れて湯煎で加熱する調理法で、電気やガス、水が十分に使えない状況でも温かい食事を用意できる方法として知られています。

 子どもたちは、自分たちで米を量り、カレーやポテトサラダづくりに取り組みました。普段の家庭での料理とは違い、大人数分を準備する難しさもあったようですが、協力しながら一つひとつの作業を進めていきました。出来上がった料理は、皿にラップを敷いて盛りつけるなど、災害時を意識した工夫も加えられ、防災の知識が自然と体験の中に溶け込んでいました。

 “もしものため”と聞くと身構えてしまいがちな防災も、実際に手を動かし、仲間と一緒に体験することで、ぐっと身近なものになります。楽しさの中に実践的な学びを織り込んでいた点に、この企画の大きな価値がありました。

非日常の夜が、仲間との絆と防災意識を育てる

 体育館では、ダンボールベッドやテントの設営体験も行われました。慣れない作業に苦戦する様子も見られたものの、友達と声を掛け合いながら一緒に空間をつくっていく時間は、子どもたちにとって忘れられない体験になったようです。

 実際に、子どもたちからは「ベッドを作るのが難しかった」という声が上がる一方で、「友達とテントを作るのが一番楽しかった」といった感想も聞かれました。避難所生活を模した体験でありながら、そこには仲間と一緒に過ごす楽しさや、協力することの大切さがしっかりと息づいていました。

 夕食後には防災クイズ大会も開かれ、空気は3分、体温は3時間、水は3日を目安に命を守る行動を考える「3-3-3の法則」や、寒さ対策として首・お腹・鼠径部を温めると効果的であることなど、実践的な知識がわかりやすく共有されました。また、見た目が似ていても保存袋は熱で開いてしまうことがあり、パッククッキングには専用の耐熱袋が必要であることなど、災害時に役立つ具体的な知識も学びました。

 楽しさだけで終わらず、しっかりと知識が身につく。そんな時間の積み重ねが、子どもたちの中に防災への意識を自然に育てていたように感じられます。

子どもたちの願いから生まれた”学び”

 体験を終えた子どもたちの中には、「本当の災害が起きたときには、今日学んだことをみんなに教えてあげたい」と話す子もいたそうです。その言葉からは、今回の経験が自分ごととして心に残ったことが伝わってきます。

 校長先生もまた、「学校に泊まるという経験はこれまでになく、卒業前の貴重な思い出になった。避難所訓練と防災訓練を兼ねた非常に良い体験だった」と振り返ります。子どもたちにとっては思い出づくりであり、同時に命を守る術を学ぶ機会にもなった今回の取り組み。その両方がしっかりと成り立っていたことが、この企画の意義を物語っています。

 「学校に泊まりたい」という子どもたちの純粋な願いを、地域の大人たちが本気で受け止め、知恵を出し合い、学びへと昇華させた今回の避難所お泊まり体験。そこには、子どもの声を大切にする地域のあたたかさと、未来を見据えた防災教育の可能性が詰まっていました。

 防災は、特別な誰かが担うものではなく、地域で暮らすすべての人に関わるものです。だからこそ、子どもと大人が一緒に学び、一緒に備える場には大きな意味があります。今後も、このような取組みが、さらに地域へ広がっていくことが期待されます。

避難所お泊まり体験の様子