小豆島出身・映画監督の初劇場公開作品「ホールド・アップ・モーニング」

「人生に意味なんてない、ただ物語があるだけ。」

 7月31日(金)より、高松市のソレイユ・2(地下)にて、香川県小豆島出身の映画監督・村口知巳氏が手がけた初の劇場公開長編作品『HOLD UP MORNING(ホールド・アップ・モーニング)』が公開されます。
 小豆島で生まれ育った村口監督が、遠回りの末に自分の物語を映画という形で届けるまでの道のりを、じっくりインタビューさせていただきました。

 村口監督は18歳まで小豆島で過ごしました。高校時代に夏目漱石などの小説を読みふけるうちに、頭の中で物語をつくることが日常になっていったそうです。卒業後は「広い世界を見たい」という想いから、大阪の映画専門学校で脚本を学び始めます。ですが半年で中退し、その後10年ほどはIT系の会社で働く日々を送っていたといいます。
 それでも、物語への情熱は消えませんでした。26歳頃に上京し、30代になって「もう一度シナリオを学びたい」と東京のシナリオセンターに通い始めます。そして30代後半、群馬の映画祭に応募したシナリオがグランプリを受賞。40歳を前にして本格的な映画制作の道を歩み始めたそうです。異色ともいえる経歴を経て、映画監督としての一歩を踏み出しました。

  『ホールドアップ・モーニング』の制作が本格化したのは、コロナ禍がきっかけでした。これまで年2本のペースで短編を撮っていた村口監督ですが、撮影がストップし時間ができたことで、長編シナリオの執筆を決意します。日常が急変し、身近な人を亡くす経験もあったそうで、そのとき改めて向き合った死生観が、作品のテーマに色濃く映し出されています。
 物語のモチーフとなったのは、村口監督が20代の頃に影響を受けたアメリカの作家、カート・ヴォネガット。最愛の人を失った青年、悲しみの行き場を探すラジオDJ、記憶や心の傷と静かに向き合う女性。そんな3人の前に、ある日「ツタ」と名乗る不思議な女性が現れ、それぞれの人生にそっと寄り添っていく物語です。

 劇中に登場する「タイムリープ症候群」という設定はあまりにリアルで、思わず「実在する病気なのでは」と検索してしまうほどです。複雑に絡み合う時系列も、最後まで見届けると綺麗につながっていく構成になっており、文学的でありながら分かりやすさも兼ね備えた作品です。
 村口監督にとって、映画づくりは経営に近い感覚だといいます。「シナリオは家でいうと土台、つまり設計図のようなものです。そこからキャストを集め、予算をやりくりしながら撮影・編集を進めていく過程は、ひとつの会社を経営しているような感覚に近い」と言います。自分の作品という”印”が一生残るからこそ、下手なものは作れないという重圧もあり、「誰にも認められなかったらどうしよう」と夜も眠れないほど苦しんだこともあったそうです。

 それでも、自分が作りたいものを形にし、観客に届けられた瞬間の喜びは、何ものにも代えがたいといいます。クラウドファンディングの支援者から「支援して本当に良かった」と言われたことが、何よりも嬉しかったと語ってくれました。
 これまで映画監督をしていることを地元に積極的に公言してこなかったそうですが、今回の長編映画公開を機に、今年初めて小豆島観光協会に報告したそうです。すると大々的に協力してもらえることになり、2月には島での上映会が実現しました。クラウドファンディングでも「小豆島を盛り上げるためなら」と、地元の多くの方が支援してくれたといいます。
 村口監督は全国の劇場を回った後、最終的には小豆島で凱旋上映会を行いたいとも語ってくれました。

香川県での上映は、7月31日(金)より高松・ソレイユ・2(地下)にて。
8月2日(日)には、村口監督と主演のつかささんによる舞台挨拶も予定されています。

小豆島から飛び出し、遠回りの末にたどり着いた一つの物語が、いよいよ地元・香川のスクリーンに届きます。