水辺で遊ぶ子どもたちの命を守るため、ライフジャケットの普及と寄贈を続ける活動「子どもたちにライジャケを!」。
この活動の中心人物が、“ライジャケサンタ”の愛称で知られる森重裕二さんです。
森重さんは、約20年間小学校教諭として子どもたちと向き合ってきた後、香川県高松市牟礼町で三代続く庵治石細目「松原等石材店」に入り、石材の世界へと足を踏み入れました。
一見、まったく異なる分野に見える「ライフジャケット」と「石材」。しかし森重さんの中では、どちらも一貫して「命」と向き合う活動だと語ります。
「子どもたちの命を守りたい」その強い想いが、教育現場から水辺へ、そして“庵治石”へと自然につながっていったのです。
庵治石の価値を、言葉にする


「石材業界は傾いている」と言われがちな今。
それでも森重さんは、この業界にはまだ大きな可能性があると語ります。
特に力を注いだのが、庵治石の価値を自分の言葉で説明できるようになることでした。
石の専門家を訪ね、時には面識のない研究者にまでメールを送り続ける――。
そうした地道な行動の中で突き当たったのが、「数値で測れる硬度だけでは、庵治石の良さは語りきれない」という気づきでした。
欠けにくさや風化しにくさ、文字を美しく彫れること。
それらの価値を一つの視点で説明できないかと模索する中で、たどり着いたのが、庵治石の本質を表す「硬さ」と「ねばさ」という考え方です。
職人たちが感覚的に語ってきた“ねばさ”こそが、庵治石の強さと美しさを支えている――。
宝石の構造にまで学びを広げながら、その価値を丁寧に言語化していきました。
「言葉にしなければ、価値は伝わらない。でも、きちんと伝われば、必ず評価される」
その想いから、説明資料は業界内にも惜しみなく共有されています。
石屋の仕事を通して出会った、心を育てる文化
石屋の先輩に勧められて始めたお墓参りは、やがて森重さん自身の生き方を大きく変えていきます。
毎日、手を合わせる。感謝を伝える。その積み重ねの中で気づいたのが、「お参り」という行為が持つ、教育的な力でした。
息子さんがケガしたことをきっかけに一緒にお墓参りをするようになり、「お願いします」と願い、「ありがとうございます」と感謝する姿を目の当たりにした森重さん。そこには、否定されることなく受け止められる“安心できる存在”がありました。
自己肯定感や心の安定、そして生きる力につながる時間――。
「教師から石材店になったからこそ、お参りの本当の良さに気づけたのかもしれません」今ではその実感を、自身の言葉で発信しています。

”命”と向き合い続けてきた20年

ライフジャケットの普及も、庵治石の価値発信も、決して簡単な道ではなく、すぐに成果が見えるものではありませんでした。それでも森重さんは、発信を止めませんでした。
「一時的に売れるためじゃない。文化として根づくことが、結果的に業界を守る」
ライジャケサンタの活動が“香川モデル”として全国に広がり、自治体や多くの支援を得るまでになった今、その経験は石材業にも活かされています。
目指すのは、ライフジャケットと同じように文化を育て、やがて日本へ、世界へとつながっていく未来。
「うまくいかないのは当たり前。でも、自分が信じたことなら、歩みを止めない。必ず、どこかで誰かが見てくれている」
ライジャケサンタとして、石材店の三代目として。
森重裕二さんは今日も、“面白い”と感じた道を、まっすぐに進み続けています。
