―地域の大人60名と高校1年生280名が紡ぐ、学びと出会いの時間―
令和7年10月22日(水)、香川県立高松桜井高等学校にて、総合的な探究の時間「高松桜井トーク×トーク×トーク!」が昨年に続き開催されました。
参加したのは高校1年生280名。そして彼らの問いに1つずつ向き合うために集まった、地域の大人60名。職業も年齢も歩んできた人生も異なる多種多様な大人たちが、生徒たちの素朴な疑問や進路への不安に丁寧に耳を傾け、それぞれの経験をもとに言葉を届けました。
この企画は、高松桜井高校の松下先生を中心に教育研究部の教員が企画し、NPO法人「わがこと」の全面協力のもと実現したものです。
「高校1年生の重要な進路選択に、何かできることはないか」
そう願った一人の先生の想いから、この取り組みは動き始めました。
きっかけは生徒の不安
――文理選択に迷う声に寄り添いたい
松下先生がこの企画を立ち上げた原点は、担任として日々生徒と向き合う中で聞こえてきた“悩みの声”でした。
「文系と理系、どちらを選べばいいのか分からない」
「文系・理系の違いや職業がイメージできない」
「自分の将来が見えないまま、大事な選択をしていいのか不安」
文理選択は、高校生活の中でも特に大きな分岐点です。
しかし、多くの生徒はその先にどんな未来があるのかを知らないまま、得意・不得意だけで進路を決めがちです。
「もっと広い視野で、自分の未来を想像できるようにしてあげたい」
「いろんな大人の人生や価値観に触れられたら、選択の基準が変わるかもしれない」
そんな思いから、地域の大人に協力を呼びかける取り組みが生まれました。
コロナ禍を経て感じたコミュニケーションの力


もう一つの原動力となったのが、コロナ禍の経験です。
松下先生が高松桜井高校に赴任した年、学校では学級閉鎖が相次ぎ、生徒同士の会話すら制限される日々が続きました。
画面越しの学びはできても、「人と話す」「自分の考えを伝える」「相手の言葉を受け取る」
――この力だけは、学校でしか育てられない。
そして学校が社会とつながることで、地域の大人という世代も経験も異なる相手とも話す機会をつくりたい。
そうするとただの交流としての役割におわらず、生徒たちにとって大切なコミュニケーションの練習の場にもなる。
実際、昨年の初回では先生方が驚くほど生徒が積極的に質問し、大人たちと本気の対話を重ねる様子が見られたとのこと。
今年も、緊張しながらも自分の言葉で問い続ける生徒の姿がありました。
地元香川県を知る
身近な場所である香川県の魅力
松下先生には「香川県の良さをもっと知ってほしい」という強い願いもあります。

大学進学などで県外へ出る生徒が多い一方、生徒自身が地元の企業を知らないまま進路を選んでしまう現実があります。
一方で、香川県には全国に誇れる魅力的な企業が数多く存在します。
だからこそ、生徒にも香川の大人と直接話すことで、地元への誇りや愛着を育んでほしい。
教員たちのこうした願いをかなえようと地域の大人たちが熱い思いを持って集まりました。
「こんなありがたいことはない。地域の方々のあたたかさを感じ、感謝してもしきれません」松下先生は語ります。
多様な人生と価値観に触れる
「正解のない選択」に気づく時間
今回の企画では職業も歩んできた道も異なる地域の大人60名が参加。
生徒から寄せられた質問には、次のようなものがありました。
「選んだ道が間違っていたらどうしよう」
「転職をするのは怖くなかったですか」
「好きなことだけで将来を選んでいいんですか」
これに対し、多くの大人が語ったのは、「人生には正解がない」というリアルな経験でした。
・得意を伸ばして道が開けた人
・偶然の出会いで仕事が変わった人
・好きなことだけは手放さず生きてきた人
生徒たちは、ひとつの質問に対して、まったく違う答えが返ってくることに驚きながらも、
「選択を間違えてもやり直せる」
「みんな悩みながら進んでいる」
と心が軽くなったと話しています。
ある生徒はこう答えていました。
「将来の夢は1つじゃなくてもいいんだと知って、安心しました」
地域とともに育つ学びの場へ
総合的な探究の時間は「自分の興味から課題を見つけ、学び続ける力」を育てることが目的です。

・自分で疑問を立てる
・相手に質問する
・予想外の返答からさらに深める
―キャッチボールは、大人になっても必要な力です。
実際に企画後の感想では、
「準備した質問だけでなく、その場で考えて質問できた」
「相手の言葉を受け止めて、自分の考えも変わった」
という声もあり、学び方そのものに変化が生まれています。
松下先生は、
「学び方を学び、将来につなげることが目標」と語ります。
「地域の大人たちの温かさに支えられて、生徒たちの視野が広がっていく。この取り組みを、これからも続けていきたい」
生徒の未来を、地域が共につくる。
「高松桜井トーク×トーク×トーク!」は、そんな地域の温かさとともに、生徒の未来を育む学びの場です。
