
香川県琴平町で鎌倉時代から続く飴屋”五人百姓 池商店”の28代目・池 龍太郎さん(以下「池さん」)。幼いころから跡継ぎとしての自覚を持ち、銀行員、行政職員として経験を積んだのち、今は28代目として町や子どもたちの未来のための活動をしています。
「香川に生まれたことを誇りに思ってもらいたい」——そんな想いから琴平町だけではなく、香川県としての魅力を、若者への講演活動などを通じて次世代へその思いと文化を繋ぐ挑戦を続ける池さんに、今回はお話を伺いました。
役場職員時代から若者に伝え続ける町の誇り

池さんは銀行員を経て、琴平町役場へ転職しました。28代目として家業と継ぐ前に、まずは琴平町の行政職員として何かできることはないか、池さんには人にはない長期的かつしっかりとした人生設計が存在します。若手職員プロジェクトチームの一員として、成人式でのプレゼンテーションを企画し、二十歳を迎えた若者たちに町の歴史や魅力を伝える取り組みを行いました。
印象的だったのは、成人式で池さんの話を聞いた、当時琴平中学校の生徒会長が、将来は町のために働きたいと琴平町役場に就職してくれたこと。
「自分たちの話が誰かの人生を変えるきっかけにる」と実感した瞬間だったと言います。
また、四国金毘羅ねぷた祭りでは、高校生たちとともにねぷたを制作。行政と若者が協働する仕組みをつくり、町の誇りを体感できる取り組みに力を注ぎました。
「ことひらまちじゅう図書館」から生まれる誇り
琴平町には公立図書館がありません。そんな中、町中の店や施設を図書館化する「ことひらまちじゅう図書館」が2017年にスタート。池商店も参画し、金刀比羅宮の歴史書や貴重な資料を公開しています。また、NHKで放送されたことをきっかけに、全国から本が寄贈されるようになりました。現在、池さんは図書委員制度を構想中です。
「子どもたちや、琴平町のために何かしたいという大人たちが図書委員として町のお店を巡りながら、本を返却する仕組みをつくりたいんです。普段入りにくい銀行やカフェにも、大義名分があれば堂々と入れますから。」
そして、その経験が子どもたちに町への誇りと親近感を育む種になる。池さんはそう信じています。

小さな観光大使

池さんは今、香川県内の保育園から大学・各種団体へ幅広く講演活動を行っています。地元のことを語れる子どもを増やすことが、町や県への愛着につながると考えるからです。
池さん自身、大学時代に栃木出身の友人が日光東照宮の魅力を語っているのを聞いて、負けじと金刀比羅宮のことを熱く語ったそうです。すると友人は現地に訪れたいと、後日わざわざ香川まで足を運んでくれたそうです。「熱意と誰かに伝えたくなる物語が人を動かす」そんな力を強く感じた出来事だったそうです。
池さんは子どもたちに、「あなたたちは小さな観光大使だよ」と語りかけます。観光大使というと大げさに感じるかもしれないけれど、町のことをひとつでも語れる人は立派な”観光大使”です。
次世代へ繋ぐ、28代目の使命
現在、池さんは大学生や高校生から相談を受けることも多いと言います。香川に生まれたことを誇りに思い、いつか県外に出ても「香川のために何かしたい」と思ってくれる若者を多く育てたい。それが、28代目としての使命だとも語ります。
「僕はまだまだ小さな種を蒔いているだけです。でもいつか、子どもたちが誇りを持ってこの町、この県のことを語ってくれる日が来ると信じています。」
28代目として、そして一人の琴平町民、香川県民として——池 龍太郎さんの挑戦は、これからも続いていきます。






(photo by 津村 晃央)