
香川県高松市に拠点を置く「高松探究塾」の代表・山村 潮音さん(以下「山村さん」)は、高校の英語教員としてキャリアを積んできたのち、2025年4月に、みんなの進路委員会(本社:東京都杉並区)とともに高松市で「たかまつ探究部」を立ち上げました。
教員人生をかけた“探究”への想い

「探究」という言葉は、今や全国の教育現場で使われるようになりましたが、香川県ではまだ「探究」という文化自体が浸透していなかったことに気づき、「本当の探究を、香川で根付かせたい。」その思いが、探究塾立ち上げの原動力となったと言います。
山村さんが目指すのは、学校教育の枠を超えることではなく、現行の学習指導要領に準拠し、現役教員としてプログラムの企画・設計・指導を行うことで、各学校の「総合的な探究の時間」のヒントとなる活動を目指しているといいます。
「本来、“探究“は学校の中でしっかりやりたい。それぞれ模索しながら探究を進めている今、『困ったときにはあそこに頼ればいい』と思ってもらえる組織が必要だと感じたんです。」それが、たかまつ探究部立ち上げのきっかけだったと言います。
たかまつ探究部とは

たかまつ探究部(以下「探究部」)は、放課後に生徒たちが集まり、自分の理想やアイデアを語り合い、実現へ向けて動く場所です。
また、普段出会えない、社会でリアルに生きる大人たちと関わり、社会と緩やかにつながりながら、自分の人生を豊かに生き抜くための視野や力を育みます。
「学校では失敗できないことがあるかもしれない。でも探究部では、失敗してもいい。むしろ、たくさん失敗してほしい。」山村さんはそう話します。失敗は財産であり、主体的に考え行動する子どもたちを育てる学びこそが、本来の探究教育だと考えているそうです。
実際、香川大学の学生との意見交換会では、普段は大人しい子も、大学生と対等に地域課題について議論していました。そのキラキラした姿に、山村さんは「これが主体的な学びの成果」だと感じたといいます。
探究部では、子どもたちが集まるのは『学校の外』ですが、あくまでも『学校教育の枠の中で活動する』ことを大切にしています。最終的に探究部が目指しているのは、学校教育への回帰です。
究極のゴールは“自己探究“


探究部が最も大切にしているのは、自己探究のプロセスです。社会課題の解決やプログラムへの参加はあくまで手段であり、最終的には「自分を俯瞰して見つめる時間」が重要だといいます。
「人は変化していくもの。昨日の自分と今日の自分が違っていていいし、それに気づけることが成長だと思う。」
探究部では、価値観カードを用いたワークで、その時々の自分を可視化しています。2ヶ月後、半年後に同じカードを引いてみると、自分がどう変化してきたかがわかる仕組みです。こうした積み重ねは、将来進学しても就職しても、豊かに生きていける土台になるといいます。
「良い企業に入ることがゴールではない。自分に合わなければ意味がない。だからこそ、自分を知ることが大事。」
山村さんは、キャリア形成を“人生をどう豊かに生きるか”と捉えています。
社会とつながる学び、未来を切り拓く子どもたち
探究部のメンバーは、商店街の空き店舗活用プロジェクトや、昔遊びをテーマにした交流イベントの企画、家庭科と家庭菜園を絡めた生活改善アイデアの模索など、多彩なプロジェクトを進行中です。アンケート調査を重ね、10月や2月の実施を目指している生徒もいます。
また、時には学校では出会うことのない社会人を講師としてお招きするイベントも開催しています。例えば、7月には女性バーテンダーとの対談イベントを企画しているそうです。男性社会とされるバーテンダー業界で、女性がどのようにキャリアを築いてきたのか──そんなリアルな話を聞くことで、子どもたちのキャリア観を広げる狙いがあります。


全国的に部活動が地域活動に移行していく中、神戸の「コベカツ」のように、探究したい生徒が集まれる場所として探究部の存在が高松でも認知されていくことを山村さんは願っています。
探究部は、学校でも塾でもない“第三の学び場”として、香川の子どもたちに新しい成長の場を提供しています。学びを生徒に返し、彼ら自身の力で未来を切り拓く──そんな山村さんの挑戦は、これからも続いていきます。
(Photo by 佐野 琢磨)