
香川県の伝統的工芸品「保多織(ぼたおり)」で仕立てた洋服が、今秋のパリファッションウィーク(以下「パリ・コレ」)に登場します。デザインを手がけるのは、高松市を拠点に活動する「ブティックjune」の代表・吉原 潤さん(以下「吉原さん」)です。
香川から世界へ——吉原さんの挑戦には、ものづくりへの愛と、地元素材へのこだわりが詰まっています。
独学で切り開いた洋服づくりへの道

吉原さんは、幼少期から“ものをつくること”が大好きでした。お菓子の箱で工作したり、映画やミュージカルの衣装に心を奪われたりと、感性を育んできたそうです。大人になってからはシンガーソングライターとして活動していましたが、病気療養をきっかけに「本当にやりたかったこと」に立ち返り、洋服づくりの道を歩み始めました。
最初は教本を読みながら独学で学んでいましたが、実際にミシンで縫ってみると、思い通りにいかないことも多く、試行錯誤の日々が続いたといいます。そんな中、縫製工場からの受注を受ける機会に恵まれ、大量生産の現場で仕事をこなすうちに、スピードと技術を身につけていったそうです。
「1か月で150着を仕上げる現場で、早く・きれいに縫うことの重要性と技術を学びました」と吉原さんは振り返ります。
保多織との出会い、「ブティックjune」誕生
「肌にやさしい生地を探していたとき、高松空港で偶然手に取ったストールに驚いたんです」。それが、香川県の伝統的工芸品・保多織との出会いでした。旅先から戻ってすぐに保多織の織り元を訪れ、生地を購入して自身の洋服を仕立てたところ、着心地の良さに惹かれ、以降、主な素材として使い続けています。
ブランド名「ブティックjune」にも、吉原さんの“好き”が詰め込まれています。映画『赤毛のアン』に登場する大好きなセリフからインスピレーションを受け、最後に「e」をつけた「june」という綴りにしたそうです。2018年にブランド名を正式に決定し、現在はアトリエを構え、展示会やオーダー対応なども行っています。

パリでの反響と、香川での発信

2022年にパリで行われた展示販売会に出展し、保多織を墨汁染めした甚兵衛やジャケットが現地の方々の注目を集めました。商品について、言葉で十分に伝えきれないもどかしさも感じた中で、「実際に着て歩いている姿を見てもらうのが、もっとも伝わる」と実感したそうです。この経験が、今回のパリ・コレ参加につながったと言います。
6月24日から29日までは、高松市の「GALLERY OUCHI」にて、制作過程のスケッチや生地、試作素材などを展示するイベントを開催中です。来場者は吉原さんと直接話すこともでき、制作の背景を深く知ることができます。
吉原さんは今回の展示について、「洋服をつくる過程——頭の中のイメージを言葉にして、絵にして、設計図にして、形にしていくプロセスをできるだけ可視化しています。実際の洋服も並んでいるので、ものづくりが好きな人や少しでも興味のある方には、きっと楽しんでいただけると思います。気になることがあれば、遠慮なく『これは何のメモですか?』など声をかけてください」と優しく話してくれました。
香川でもパリコレを——これからの展望
吉原さんは、「パリ・コレはゴールではなくスタート」と言います。地元・香川でもその熱量を伝えるべく、今後もさまざまなイベントを予定されています。
8月にはさぬき市津田町で開催されるクラフトイベントに参加予定です。このイベントでは、来場者が“ 人間はた織り機”で生地をつくり、それをタンクトップに仕立てるユニークなワークショップも行われる予定です。
10月にはいよいよパリ・コレ本番を迎えます。会場は、観光地としてもにぎわうパリ11区です。そして帰国後には、香川でも同じ衣装・演出を再現するファッションショーの開催も計画されています。地元モデルを起用し、「香川版パリ・コレ」として新たな舞台をつくろうと計画しています。

「香川から世界へ。そしてまた地元へ届けたい」。吉原さんの挑戦は、地域の伝統と感性を未来へつなぐ、力強いメッセージを届けてくれます。
ブティックJune公式ホームページ:https://www.june-closet.com/
ギャラリー



(Photo by 津村 晃央)