
香川県三豊市にある香川高等専門学校(以下「香川高専」)詫間キャンパスでは、若き技術者の卵たちが、身近な課題を起点に、未来を見据えたアイデアを形にする挑戦をしています。その取り組みの一つが「高専GIRLS SDGs×Technology Contest」、通称「GCON」です。理工系女子の裾野を広げるとともに、学生一人ひとりの“社会とつながる力”を育むこのコンテストには、学校の枠を越えた学びと成長がここにあります。今回は、GCONの立ち上げにも携わっていた内田先生と指導にあたっている技術職員の藤田先生にお話を伺いました。
社会課題に挑む「GCON」──300人超の学生が集う成長の舞台
「GCON」は、SDGs(持続可能な開発目標)の視点で社会課題の解決に取り組む未来の女性エンジニア・研究者の育成促進を図ることを目的に開催されています。2025年で4回目を迎えるこのコンテストには、全国から300人以上の学生が参加しており、カンファレンスやオリエンテーションといったイベントも併設され、学生と企業が直接対話する機会が設けられているのも大きな特徴です。
内田先生は「教育は学校の中だけでは完結しません。外部の全く属性の異なる社会人や企業の方々と関わることで、学生の学びは一段と深まる」と話します。たとえば、協賛企業によるイベントや支援は、コンテスト後の継続的な学びの機会にもなっており、参加者にとってかけがえのない経験になっています。
さらにGCONでは、未来の理工系人材を育てる取り組みとして、中学生を招待し、実際のプレゼンテーションやアイデアを間近で体感してもらう機会を設けています。次世代を担う中学生にとっても、ものづくりや技術への関心を深める貴重なきっかけとなっているのです。
技術より“気づき”から──身近な不便を未来のアイデアに
「最初から技術で解決しようとしないで」と語るのは、GCONに挑戦する学生の指導にあたる藤田先生。自身も香川高専の卒業生であり、学生時代に多数の特許を取得し、さまざまなコンテストで実績を重ねてきた経験を持ちます。その背景から、藤田先生は“技術ありき”ではなく、まずは「身近な気づき」から出発するアイデア創出を重視しています。
実際、学生たちは日常の“ちょっと不便”に目を向けることで、リアルな課題と出会っています。たとえば、2023年にユース賞を受賞した詫間キャンパスの2年生チームは、”子どもとのおでかけを便利にする『べんりーべいびープロジェクト』”を提案しました。赤ちゃんとの外出時に荷物が多くなりがちで大変なことや、授乳室がパパにとって使いづらい現状に着目し、ベビー用品の自動販売機と連携するアプリケーションを考案。パパも育児に参加しやすくなることで、女性の社会進出や男女共同参画の実現にもつながるアイデアです。これは、“配慮”や“現場の声”に寄り添った発想から生まれたものです。
「誰もが活躍できる社会へ」──GCONが描く未来
GCONでは、2年生以下の学生を対象とした「ユース賞」が設けられており、技術や知識の成熟度に関係なく、アイデアと熱意があれば誰でも挑戦できる環境が整えられています。前述の詫間キャンパスの受賞チームも、専門知識がまだ十分でない中で、周囲との対話を重ねながら工夫を凝らし、アイデアを着実に形にしていきました。
また、GCONを通じて得られる他校の学生との交流や、さまざまな取り組みに触れる機会も、参加者にとって大きな刺激となっています。視野が広がり、自分たちの発想をより深めるきっかけとなる貴重な学びの場となっているのです。
さらに、GCONには「G(ガールズ)」という言葉が取れる日──性別にかかわらず、誰もが技術者として活躍できる社会の実現をめざすというサブテーマが掲げられています。理工系女子にとどまらず、すべての人の可能性を尊重するビジョンが込められているのです。
未来を担う技術者の育成に力を注ぐ香川高専詫間キャンパス。GCONをはじめとした実践的な取り組みは、学生たちに自信と挑戦する力を育み、一人ひとりの可能性を広げています。ここで培われた多様な価値観と実践力を持つ人材が、これからの社会を支える存在として羽ばたいていくことを、心から期待しています。